早稲田大学 vs 流通経済大学
1999大学選手権

 

 

「負けてなお素晴らしい流通経済ラグビー。」

 

試合日: 1999年12月19日
結果: 早稲田大学 57-41 流通経済大学(前半27-17,後半30-24)
会場: 秩父宮ラグビー場
レフェリー: 桜岡 将博

 このようなノーガードの打ち合いになるとは予想だにしなかったが、取り合いもまま面白いゲームであることは確かだ。ただ、やはり流通経済は、試合間隔が早稲田よりも空いていたせいか、ゲームに気持ちが入るまでに時間を要したように思う。前半20分までにミスなく得点を積み重ねた結果が、勝負の明暗を分けたと考える。逆に言えば、早稲田は「機先を制す」ことがうまくいったといえるだろう。

 しかし、こう考えると明治のディフェンスはやはり「ひとつ水準が高かった」ということを証明したように思う。流通経済のBKラインディフェンスは、よく観察してタックルに向かうがプレスが強いとは言えず、早稲田も先に仕掛けが実行でき、ワイドラインの深さと間隔を常に自分たちのものにできた。

 一方、早稲田のラインディフェンスは、素早い出足でプレスしているが、それは2CTBの外側とラインの裏にスペースがあるわけで(これは早稲田も充分に分かっているだろうが)、流通経済はFWがモールなどで早稲田の人数を奪った上で2線防御を薄くし、そのエリアでSO加瀬を起点とするムーブ・ショートパントを使いアタックシリーズを早いフェーズでトライに結びつけた。巧いね、SO加瀬。

 流通経済を支えているものは「パスとランニングコースによる突破」。実はこれって早稲田の話のはずだ。まあ、今シーズンはいいから、今後早稲田は流通経済のアタックシリーズに自分たちの失ったものが確かにあることを見直すべきだろう。それができれば、おそらくもうひとつランクが上がるはずだ。ずっと創造と継承ってことなんだろうな。

 流通経済は間違いなく強いチームだった。関東学院の飛躍前の予兆と同じ感触を感じる。そして流通経済はコンタクト前後のボール扱い、ボディコントロールに「接近」が見出せる。非常に良いチーム。わたしは次の大きな飛躍を予想する。日本で一番いいラグビーをしていると思うのだ。負けはしたが、負けてなお学ぶべきチームに成長している。そんなチームに勝利したのは、やはり価値がある。過信ではなく、ひとつひとつゲームをやれる喜びを、そこで出しきることの大事さを早稲田は無駄にしないように。

 さて、早稲田としては、これで恐らく弱点を全部出したのではないか。ラインアウトはまだまだ大事なところで失うことがある。前述したようにディフェンスシステム上、突破されるエリアも露呈した。いやー次々とよく対戦相手は研究するよね、スクラムは次の同志社相手には粉砕に近いところも想定されるし、今回FWの押しがBKの突破を作るというシンプルなものとラインディフェンスにおけるスペースを、早稲田攻略法に加えたって感じだよね。ここからはどうするか、早急に考えていくしかないな、早稲田は。でも、こういう事をずーっと早稲田は考えてきたわけで、ソフトはまだまだあるはずだ。

 早稲田は、陣地を獲得するキッキングタクティクスの重要性を冷静に実行できたことにより、ゲームを支配することに繋がったと考える。この点で、SO福田は自分を見失うことなく「揺さぶる」ことと「得点に換える」ことの良いゲームメイクができたといえる。そして心配されたが、SH松山・田原、WTB西辻・艶島、FB山崎弘は、軽いプレーに走らず個性をきちんと示せた。ケガが不安だが懸命に直して今後できるだけゲームに参加することを期待したい。

 次の同志社。強敵だね。特に強烈な押しを持つ「スクラム」は、情報を仕入れ対処をさらに考えていくしかない。大西将太郎が出る出ないにかかわらず、才能集団はさぼらずFWが全員前にドライブし、プラットフォームを作って、BKはやはり近場と外側を巧く使い、すれ違いを狙いながらゲームを確実に支配していく。

 やはり早稲田としては、「ゲームプラン」を死ぬほど考えて、アウェイであることを意識して「受け」に入らず、グラウンドであきらめずに相手を観察し考えながら「修正」し、そして自分たちの信じたものを「出しきる」しかないわけだ。あきらかに8強のなかで最も格下だよね、だからできることは毎試合全部やらないと悔いも残ることになるだろう。原点に戻るか。それは「一歩前に踏み込んだパックをきちんとし足をかくタックル」「ビッグヒットを狙って飛びこむのではなく照準を合わせたボールを殺すスマッシュヒット」、これは早稲田ラグビーの真髄。

 ここで、ひとつだけ苦言を。FL上村へ。もう本人が充分承知していると思うけど、ゲームの流れが変わったのは確かだ(逆転のきっかけになった)。笛がなってから必要ないプレーに固執するな、もし相手のプレーに不服があるなら違う局面で「踏みこんだタックル」で返してやれ。闘争ってのはそういうもんだ、ラグビーってのは「人間性」と「獣性」の境でやるものだと私は思う。すると、時として「獣性」が上回ることで理性を失うことにもなる。その獣性をコントロールして、獲物を狩る場面をばっちり決めることができる、そんなすごい素材と私は上村を見て思うのだ。良い成長を。

 不覚にも、小森のトライで涙がにじんだ。あんまりないんだよね、こんなこと。昨年の法政戦でもなかった。いつもゲームを頭の中でぐるぐる考えているからね。ほんとめずらしい。それと、ゲーム後の、小森の態度は立派だった。「ゲームは相手があるから成立する。」何かは分からないかもしれないが、何かが見えてきているかもしれないね、小森は。その後姿に、観衆として純粋に感謝します。

 できれば、15人でその姿勢を実行してくれ。そういう意味では、まだまだいっぱいやることと甘さが潜んでいるんだと感じたゲームでもあったわけだな。厳しいか。Enjoyできる今を大切に、ね。今年は、負けた早慶戦・早明戦そして今日と、ある意味経験値をつけるのにものすごく良いゲームしてきていると思う。もうひとつブレイクしたいね、最後まであきらめないことが、きっとそのステップアップを作るのかもしれない。(同志社のラグビーについては、掲示板などで書いていく予定。)

早稲田大学   流通経済大学
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