モン・スニ峠を下って、こんどはイズラン峠へ向かう途中の景色 (1997年)

 ヨーロッパの山岳道には、一般に、ガードレールというものがない。おかげで、山の景色は余計なものが見えなくて美しいが、狭い道なので、車がすれ違うときは、ちょっと怖い。

 峠への道には、森がまったくなかった。標高が高すぎて、木が育たないのだろう。峠の周りを囲む山は、3000m級の山々である。

        

 途中で、道路脇に車を止め、一休みした。なだらかに上る斜面の先に、裂け目が見え、水の音が聞こえていた。ここからはよく見えないが、小さな谷があるらしい。妻がそちらに向かって草原を上り始めた。100mくらい歩いたところであろうか、突然大声で私を呼ぶので、行ってみると、一輪、エーデルワイスが咲いていた。これは、本当に本物の野生のものである。なんという偶然なのだろう。興奮して周りも探したが、これしか見つけられなかった。ただ一輪だけ咲いていたのである。私たちにとっては、この旅行の奇跡のように思えた。

                             

 イズラン峠 (2,770m) からの景色

 峠の上で一休み

 峠からは、ヴァル・ディゼール村とシュヴリル湖が見える。ヴァル・ディゼールはウィンタースポーツの村のため、この時期は閑散としていた。私にとっては、夏山の方がずっと魅力的だが、一般のフランス人にとって、アルプスといえばウィンタースポーツなのだろう。たしかに、この美しい景色を見ながらスキーで斜面を滑り下るのは気持ちいいと思う。ただ、白一色で色彩に欠けるうらみがある。この写真のヴァル・ディゼールの山の向こう(北西)には、オリンピックやワールドカップで有名なアルベールヴィルがある。スキーの好きな人にとっては、あこがれの地かもしれない。

 「お母さん、何見てるの?」 「う〜ん、花」。 「また遅くなっちゃうよ。お腹へったよー」。 「さー、もういくぞ」。 ・・・・・・ もっぱら道と風景に関心の集中する私と、レストランでも買い物でもないときは、めずらしい草花を探している妻と、すぐお腹のへる娘と、何十回も繰り返した会話を再現すると、こうなる。