対岸から見たシャイヨ宮 (2005年)
シャイヨ宮も万博の遺産である。パレ・ドゥ・トキョーと同じく1937年の。
1973年夏、エッフェル塔をたずねるために地下鉄に乗り、トロカデロ駅の長い階段を登ってシャイヨ宮のテラスに出た時、急に視界が開けて、心底から、こんなに美しい都会の景色があろうか、と感動した。正面にはエッフェル塔がそびえ、テラスのすぐ下には幾段にも組み合わされた広場の噴水が、金色に輝くすばらしい彫刻に向けて盛大に水しぶきを上げている。贅沢で豪華で、そしてみごとに計算され均斉のとれた都会の絶景だと思った。
それから、パリに来るたびにこのテラスに立ったが、最初の感動はもう二度とはやってこなかった。感覚が慣れによって鈍麻したからばかりではないと思う。いつもなにか違っていて、いやたぶん欠けていて、あの時の最高の調和が実現されていないからではなかろうか。それは季節だったり(やはり夏の空がいい)、人の数の多さだったり、修復工事だったり、エッフェル塔にときおり設置される大イベントのカウントダウン用巨大電光掲示板だったり、と。ことに残念なのは、近年修復のためか噴水が途絶えたままであることだ。あー、景色も一期一会だなー、と思う。
シャイヨ宮の両翼は、それぞれ博物館になっている。右翼はフランス文化財博物館、左翼は海軍博物館と人類博物館である。高校時代、帆船のプラモデルを作るのに夢中になっていた私は、海軍博物館に入って陶然となった。ほとんど、ありとあらゆる、といっていい、帆船模型が、ここには展示されていたからである。