リュクサンブール公園と元老院 (1997年)

 30年前、写真の人々が腰掛けている公園の椅子は有料だった。いまもそうだろうか?

 初めてリュクサンブール公園に行ったときのこと、椅子に腰掛けたら、しばらくして老婆が代金を取りに来た。何のことやら、わけがわからなかった。しかし、物乞いではないことがすぐ分り、なんとなく事情を理解して、ベンチのほうに座りなおした。こちらはただである。そのとき、フランスという国は変な国だ、と思った。公園の椅子で金を取るなんて。

 リュクサンブール公園には、日和がよければ、半日椅子に腰掛けて過ごす老人たちが結構いる。年金生活の孤独な老人は、公園で行き交う人々を眺め、時折知り合いが通りかかると、抱き合って挨拶を交わし、しばらく会話を愉しみ、まれに旅行者や見知らぬ人に何か尋ねられると、親切をするか、意地悪をする。(私の経験では、ものすごく親切な老人とやたら不機嫌な老人とに二極分化する) そうして数時間を公園で過ごす彼らにとって、百円程度の金で椅子がいつも自由になるとすれば、むしろそれは合理的だ。10分と腰掛けていない若者にとってはきわめて理不尽だが。