エリゼー宮 (2005年)

 フォーブール・サントノレ街を凱旋門方向にしばらく登ってゆくと、大統領官邸エリゼー宮の前に出る。立派な門に門衛がおり、要所要所には警官が配備されているから、重要な場所であることは無知な観光客にもわかる。しかし、ここが国政の中枢だと聞くと、「えー」か「うそー」か、ともかく、全然らしくないので、驚くか拍子抜けするか、どちらかではないだろうか。周りを普通の商店が囲んでおり、官邸前こそないが通りを一本隔てれば、パリでは当たり前の青空駐車の車が並ぶ。前を行き交う車も、いちいち検問を受けるわけでなく、この通りをあえて避けている様子もない。ホワイトハウスの壮麗さ、皇居の広さ、首相官邸のいかめしさと比べると、そこに革命をいくども経た国の歴史が反映しているように思える。権威を象徴するなら、ルーヴル宮を使うことも、ヴェルサイユ宮を使うことも、リュクサンブール宮を使うことも、他にいくらでも選択肢はあったはずである。しかし、前庭にフランス式庭園すらないこのエリゼー宮をあえて選んだ。そこにフランス政治の特徴の一端を見ることができるかもしれない。