初めて私がパリの地を踏んだとき、オルセー美術館は、まだ単なる駅の廃屋だった。すばらしい外観ながら、ずっと荒れるがままに放置されていた。それを故ミッテラン大統領が、美術館に改造した。1986年のことである。なお、この建物も1900年の万博の遺産である。

 ここにある傑作の多くを、私は、かつてジュ・ドゥ・ポンムと呼ばれていた近代美術館やルーヴルで見た。その当時、美術館はいつも閑散とし、しかも学生は、国立の場合、たいてい平日半額、土・日無料、であったから、何度も傑作と贅沢な時間を過ごすことができた。といっても、そう思うようになったのは後年のことで、その頃、入るのがあまりに簡単すぎて、ありがたさがわからなかった。当時の私にとって、美術館は、週末はただなのだから、ときに、雨宿りの場となったり、歩き疲れた足を休める場となったり、約束までの時間調整の場となったりした。つまり、美術品よりも施設にありがたみを感じていたといえる。しかし、なんとなく眺めていた傑作の数々は、いつのまにかしっかり記憶に刻まれていた。その価値を少しずつ私は知ることになった。

      オルセイ美術館 (1997年)

ロマン派や印象派の傑作の数々は、屋上のようになっている床の下にある。そこはいくつもの部屋に仕切られおり、画派ごとにまとまって作品が展示されている。