エトルタの断崖と奇岩 La Falaise d'Etretat  (2010年)

 エトルタはクールベやモネの絵、またモーリス・ルブランの怪盗ルパン・シリーズの代表作『奇岩城』によって広く知られている。

 オート・ノルマンディの海岸は、ファレーズ falaise と呼ばれる白っぽいもろい石の断崖が断続的に百キロ以上にわたって続くが、エトルタの町はそのファレーズが途切れて入江の砂浜となったところに開けており、沿岸で漁をし舟を引っ張り上げるには大変都合のよい場所となっている。モネの絵を見ると、たくさんの漁船が砂浜を埋めており、少なくとも19世紀末までは、ここで盛んに漁が行われていたことがわかる。しかし、いまは、同じ砂浜に一隻の漁船もない。おそらくここに人が住み始めて以来、数百年数千年続いてきたであろう漁業が、ここ1世紀のうちに姿を消したのである。

 

 ルパンの奇岩城は、下の写真の、門のように開いた岩の奥の、先が尖塔のようにとがった岩である。この岩の中に、だれも知らない秘密基地がある、と想像してみると、架空とはいえ、わくわくしてくる。小説のモデルとなった地にやってきてみると、たいがいは描写の方が優れていて、想像とは違う、がっかり、となることが多いが、奇岩城は正反対だった。そうか、ここか、ここなんだ、すごい! と、もうとうに忘れていたルパンを名作みたいに思い起こし、素直に感心し、とてもうれしくなった。

 エトルタの町からは右の断崖の上にも左の断崖の上にも登ることができる。私は奇岩が遠望できる右(北東)の断崖に登ったが、あとで、奇岩城が反対から見下ろせる左の断崖にしておけばよかったと後悔した。時間があれば、ぜひ両方に登るべきである。

 下の写真のように、ファレーズはここからは視界の果てまで続いている。眼前の海ドーバー海峡をわたって対岸のイギリスに行っても、同じようにファレーズが続いている。この4カ月後、初めてイギリスに行ったが、イギリスのファレーズもまた美しかった。(下の2枚目の写真)

  イギリス・イーストボーン付近のファレーズ

 クールベの描いたエトルタの奇岩

 

 モネの描いたエトルタの奇岩。モネには他にもたくさんエトルタを描いたものがある。