オルナンの村と断崖に立つ家  (2010年)

 オルナンにやって来た時、村の向こうのジュラ山塊が目に入ると、クールベの『オルナンの埋葬』が目に浮かんだ。これはあの絵の背後の山だ、と、すぐに合点した。実際に絵と比べてみれば、山の形がそのままを写されているわけでない。構図を考えて構成している。だが、それは、やはりクールベの故郷の山である。

  絵の背景のモデルとなった山、と推測される。

 クールベの『オルナンの埋葬』がいかに重要な絵画であるかは、多少とも西洋美術に関心がある人なら、誰でも知っていよう。この絵は、伝統的な絵画手法で描かれているが、近代絵画への扉を開いた画期的な一枚である。歴史画のような荘重な調子で、クールベは、自分が生まれた名もない村の葬儀を描いた。大画面でのまったく破綻のない見事な構図と描写力であるだけに、大スキャンダルとなった。当時、このような通俗の現実を絵のモチーフとすることは許されていなかった。大絵画は、聖書や神話や歴史を題材とする崇高なものでなければならなかったからである。クールベは、こうしたアカデミスムに敢然と異を唱え、以後「レアリスム(写実主義)絵画」を創始する。それが、近代絵画への第一歩だったわけである。

 オルナンの村の教会。 内部は大変豪華である。ここは寒村ではない。クールベはこの村の富農の子であるが、その財力は、この教会からある程度推測していいのかもしれない。

 オルナンを出てスイスへ向かうと、道はジュラ山塊の中に入り、断崖の脇をうねるように進むことになる。下の写真は峠の途中で撮ったもので、左の谷はとても深い。写真では全然迫力がないが、山と谷と断崖の道と谷の向こうに見える村、その空間的構成にはめまいがしそうなスケール感がある。