ロワール河は、フランス第一の大河である。中央山塊のジェルビエ・ドゥ・ジョン山 Mont Gerbier-de-Jonc(1551m)に源を発し、ブルターニュの都ナントで大西洋に注ぐ。全長1021kmあり、信濃川の約3倍、セーヌ河の約2倍弱の長さがある。
ロワール河には、トゥール近辺で、シェール川、アンドル川、ヴィエンヌ川が合流する。私が訪れた城は、みな、ロワール本流かこの支流のたもとにある。水の豊かな田園に建つ城は、日本の、城下の町を睥睨する城や山の頂に建つ城の、孤高の威厳を持たない代わりに、豊かさと文化の香りを感じさせる。
ヨーロッパの川には、多くの場合、堤防がない。時折、大雨で水かさが増し広大な土地が水浸しになっている映像をニュースで見ることがあるが、それでも、莫大な費用をかけて延々と堤防を築くほどの被害ではない、ということなのだろうか。少なくとも、日本の川に比べ、ヨーロッパの川は、高低差はわずかで流量も一定しているから、穏やかであることは間違いなかろう。おかげで、余計な人工物に縁取りされない川の景色は自然そのままで美しい。人の住む脇をゆったりと流れてゆく大河の風景は、刹那を飲み込んだ悠久の豊かな時の流れを感じさせる。
ボージャンシーのロワール河(上・下) (2005年)
中の島というにはあまりに小さな植物の密生している洲には、日暮れ時、さまざまな野鳥が群れていた。
アンドル川
この地方の川べりには、たいてい樹が植えられていて、それらの樹には、実にしばしばヤドリギがついていた。宿主の樹木が葉をすべて落としても、ヤドリギは常緑である。そこから、ケルトの神話では、ヤドリギは永遠を象徴するらしい。この季節、まもなく新緑が芽吹こうとする頃だが、まだしばらくはヤドリギがはっきり識別できる。木々が緑であふれたら、よく見なければ分からなくなるだろう。
ロワール河
この景色を眺めていたら、時間がゆっくり流れそうな気がする。城館がなくとも、自然だけでも、ロワールは十分美しい。
アンボワーズの城から眺めたロワール河(上と下)
アンドル川の堰堤と水門
アンドル川は、この数キロ下流でロワール河と合流する。