ル・ファウーという通りがかりの小さな村である。写真の教会の向いに村役場があり、その隣に公証人事務所があった。バルザックの小説には、「代訴人」とともに、「公証人」という名詞が頻繁に出てくる。法律関係の専門職で、日本の司法書士のような役割と同時に民事では弁護士の役割も果たす。フランスは契約の国で、遺言書のようなものばかりでなく、結婚に際しても、「夫婦財産契約」を締結したりする。要するに、彼らはフランス人の生活に深くかかわっているのである。この日は、雨の降りそうな暗い天気だったため、事務所には電灯が点り、窓から明るい光が漏れていた。バルザックの世界は150年以上も昔のことだが、現代もなんら変わらず、冠婚葬祭といった日常生活の節目に公証人が関与しているらしい。そう見ると、異邦人の私は妙に感心してしまった。
この川をしばらく下るとブレストの入り江の一番奥に着く。