切り通しをすぎたのか、道を曲がったのか、覚えていないが、不意にひとつの街が、空を領して、目に飛び込んできた。そのとき、思わず声を上げた。海に突き出た断崖の上に、古い街が、まるごとのっかっていたのである。写真を撮るまもなくビューポイントを通り過ぎてしまったが、忘れがたい景色だった。

 写真はその要塞のようなグランヴィルの旧市街に上がって眼下を撮ったものである。写真ではあまり高さを感じさせないが、四方いい眺めだった。 ・・・しかし、いま思えば、車をUターンさせて驚きの景色まで戻ればよかった。毎日、たくさんのものを見ようと旅程を詰め込んだ急ぎ足ではあったが、驚嘆や感動は日々あるわけではない。人はこんなところにこんな風にも住むんだ・・・という驚き。一瞬の景色が、生涯の記憶となることもある。

グランヴィルの旧市街と反対側は海である。海から断崖上のこの街を仰ぎ見るのも、さぞ壮観だろうと思う。まるで出城のようなのだ。