ストラスブール旧市街にそびえるノートルダム大聖堂 Notre-Dame de Strasbourg  (2010年)

 パリから東に約500km、緯度的にはほとんど変わらないが、その日ストラスブールに近づいてゆくと、車窓の景色が一変した。カラーからモノトーンに変わった。雪が降っていたのである。もう3月も半ばに近い。こんな時期にも雪が降るのか、と驚き、まったくその準備がないのに困惑した。薄手のコートのポケットに両手を突っ込みながら、大西洋に近いところと内陸では、この時期これほどの違いがあることを身をもって知った。

 パリのエスト駅でTGVに乗り、出発の合図もなく動き出した電車から最初に流れた車内放送が、もうすでにフランス語とドイツ語だった。ストラスブールはフランスのドイツである。ドイツ系住人が多く暮らし、街の中でも時折ドイツ語が聞こえた。街の東を流れるライン河の向こうはドイツで、河が自然国境となっている。旧市街は、このライン河の支流イル川の中州にある。しかし、地図で見ると、中州ではなくまるでお堀を掘ったようだ。

  町は、ライン河・イル川のいわば天然の水路としての性格を利して、水運と運ばれてくる原料の加工で栄えた。いまでも各所に水門が機能し、それを利用して観光船が旧市街を一周している。水門で水の高さを調整しながら先に進まねばならないのは、時間がかかって面倒に思えるが、いまはそのこと自体が観光の一つとなっている。

 

 イル川の各所にある水門。右の水門には観光船が入っており、これから出るところである。

 

 ストラスブールの旧市街。建物は当然ドイツ風である。

 歴史のある時期はドイツで、ある時期はフランスだった。ここに代々暮していれば、自分たちはフランス人だというより、欧州人だと言いたくなるだろう。現在、ストラスブールには欧州議会、評議会、人権裁判所が置かれている。