後藤教授からビジターの皆さんへのメッセージ
私は主に「むし」を研究材料にしていますが、世の中には「むし」と聞いただけで体中が痒くなる方もおられるでしょう。しかし、「虫めづる姫君」(堤中納言物語)や「虫けら様」(秋山亜由子)、「黄金都市」(手塚治虫)など、「むし」をこよなく愛して下さる方も多くおられます。一言に「むし」と申しましても、その姿形、生活環などは多種多様です。ひとつ、「むし」の代表格である“チョウ”を例に取ってみても、その姿は大いに違います。したがって、「チョウの成虫は綺麗で好きだけれども、幼虫は嫌い」という方もおられることと思います 私が扱っている「むし」は、世間一般ではいわゆる“嫌われ者”で、どう考え直してみてもプラスよりマイナスのイメージが強い生き物です。その体長は、0.07〜30mmと非常に小さく、触角や翅、目もなく(仮にあったとしても単眼だけ)、多くは卵形をした生き物です。 ……ここまでのヒントで、この生き物が何か、お分かりになりましたか? この生き物たちは、私たちの身の回りの、それこそいない場所はないというくらいに、多様な環境にいます。それは極地から熱帯、はては海岸から高山の頂、森林、農耕地、温泉、地下水、家の中…などなど。もっとも、小さすぎて皆さんの目にはとまっていないと思いますけども…。 さて、もうその正体が分かったのではないでしょうか。そうです。私は、“ダニ”を研究材料にしているのです。“ダニ”と申しましても、先に述べた「むし」と同じく、その多彩な生活環境が表すとおりに多くの種類がいます。食生活の面で見ても、落ち葉や枯れ枝を食べるもの、カビやバクテリアなどを食べるもの、昆虫や他のダニを捕食するもの、哺乳類や鳥、爬虫類に寄生するもの、貯蔵食品に発生するものなど、挙げたらキリがありません。例えば、砂糖や干菓子に発生するサトウダニやホシカダニ、皮膚に棲むニキビダニやヒゼンダニ、温泉にいるオンセンダニ、渓流に棲むミズダニなどなど。 ですが皆さん。この世界に75,000種いるといわれているダニ類ですが、人間にとって有害、もしくは有益なダニは、わずか数%にすぎません。ほとんどが、私たち人間とはまったく関係ないところで、たとえすぐそばにいたとしても、一切の関係を持たないで、独自の生活を送っているのです。ですから、ご安心下さい。オンセンダニのいる温泉に入っても私たちには何の影響もありません。また、「ミモレット」ダニは最も有名な有益ダニの一つです。ミモレットは、ダニの力でできるチーズです。このチーズ、ちょっと高価ですが、是非18ヶ月熟成物をお試し下さい。できればダニの働いたことが分かる月のクレーターのような表皮付きのものをお求め下さい。輸送の途中でダニは死んでいるはずですので、思う存分顔を近づけても大丈夫(?)です。 このように数多くいる“ダニ”のうち、私は生きた植物を食べているダニであるハダニ(葉ダニ)の研究をしています。もちろん、ハダニは農業上重要な害虫ですから、その生態ばかりでなく、天敵を利用した防除法などについても研究しています。応用的な研究の他に、将来に向けた基礎的な研究も怠ってはいません。それらの詳細については、学会発表や論文のページをクリックして、そちらを参照して頂きたいと思います。 最後に、私のモットーをお知らせしておきます。「遊んでも1年、働いても1年。同じ1年なら一生懸命やりましょう」です。私を音楽で表現するならば、『白雪姫』の7人の妖精たちが歌う「ハイホー・ハイホー」でしょうか。 私の研究の興味のある方は、一度お尋ねください。お越しをお待ちしております。
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